自閉症の息子が社会人になったとき、仕事ができる人になってほしいと思いました。
そのための療育目標は「役に立つ人に育てること」です。
役に立つ人とは仕事ができる人、当てにされる人です。
現在の息子を見た人は「S君は器用ね。」と言います。ですが、彼は本質的に不器用です。キッチリと合ってないと気が済まない性格ではなく、かなり大雑把なところがあります。
子育て目標を立てた7歳の頃は、仕事ができる手ではありませんでした。
そんな息子を役に立つ人に育てるためにしたことをお話しします。
不器用な手も熟練すれば器用になる
息子には不器用と器用の両面があります。
どういうことかというと、彼が「器用ね。」と、人に認められることは、何年も継続して熟練したことに限られているのです。
慣れないことには未だに不器用なままです。
これは、彼が作った竹工芸の虫です。これを見たら「器用ね!」って思いますよね。
竹細工は就職してから、伝統工芸士の師匠に弟子入りして教わり、毎夜、仕事から帰ってくると最低2時間の作業を継続して習得しました。
こんな仕事ができる一方で、ちょうちょ結びはへたくそです。練習をしなかったわけではないですが、熟練するまでやれてなかったんです。
まず、そんな彼の手が使えるようになるためにやらせたことは折り紙でした。
毎日の個別学習の最後が、折り紙で奴さんを折ることにしていたのです。毎日、ひとつ折るだけですが、折り紙は何年も続けたのです。
折り紙を折りたたんでいくときは端と端をキッチリ合わせないと、きれいに仕上がらないですよね。不器用な彼は、最初の頃はグチャグチャになっていました。
紙の端と端を合わせることに注意して折ることができるようになると、洗濯物をたたむのも上手になっていました。
そう、折り紙は不器用な彼の手を、仕事ができる手に育てるためにやっていたのです。
そんなふうに、何のためにやっているのか目的があると、折り紙ひとつの課題の意義が大きくなるので私の励みにもなったのです。
役に立つ人の一歩は家庭から始める
「役に立つ人に育てる」ことの出発点は、家庭内で役に立つ人に育てることでした。
家庭内で役に立つことといえば「家事」です。
彼には2人の姉がいたので、姉弟3人で、掃除、洗濯、料理の役割を決めたり、当番制にしていたのです。
彼の当番が一番多かったので、姉たちが弟のことを家庭内で役に立つ存在として認めることにもなっていたようです。
姉たちは弟のことを障害があるからと恥ずかしがったり、隠したりすることがなかったので、友達に不思議がられたそうです。
彼女たちは、家庭内で自分たち以上に役に立っている弟に一目置いていたのです。
料理を任せられるまでに育てる
家事の中でも特に力を入れたのは「料理」です。小学校1年生の時から始めました。
それまでの彼は、火が怖い、包丁が怖い状態だったのです。
怖いものでも道具としてきちんと使い方を教えて使えるようになれば、怖いものではなく便利なものになっていきます。
そうはいっても、初めて包丁でジャガイモの皮むきをしたときは大変でしたよ。
包丁を持つこと自体が怖かったのですから、息子の後ろから抱え込むようにして、右手も左手も彼の手に被せて補助するところからだったのです。
その頃の彼の身長は120cmくらいだったので、後ろから抱え込むようにして補助ができたんですよ。もうちょっと大きくなっていたら、後ろから抱え込むのは無理だったでしょうね。
初めて彼に教えた料理はカレーでした。材料を切るところからカレーが出来上がるまでに4時間ほどかかりましたよ。
皮を剥くだけのような部分的なお手伝いではなく、初めから食後の片付けまでやらせます。
全工程をさせることで、料理が出来上がる楽しみと、家族に「おいしいね。」と、褒めてもらう喜びもあります。
最終的には、材料調達から後片付けまで出来るようにすることを目標に小学校1年生の時から取り組みを始めたのです。
買い物から食後の片付けまで、私が手出しすることなく彼に任し切れるようになったのは、小学校6年生の頃でした。
私の仕事が忙しいときなどに、夕飯の料理を彼に頼めるまでになったのです。
姉たちは、弟が作った料理を「おいしいね~!」と食べていて、「Sちゃんすごーい!」と、彼には敵わないと思っていたようでした。
私に頼らず、彼一人に任せられることができることで、家庭内で役に立つ人に育っていけたのです。
彼にとっても家族に認められ頼られる存在になることが自信になっていきました。
料理は自閉症療育の総合学習です
彼に料理を教えるのは、毎週日曜日でした。週1回の取り組みですが、継続すること6年で任せられるようになったのです。
料理を教えていると、必要な基礎学習も見えてきます。
買い物の仕方、お金の扱い、計算すること、温度を見ること、タイマーを使うこと、分量を計算すること、計ること、細かく上げるとキリがないくらい課題が見つかります。
料理をしながらでは習得しにくいことは、個別学習の課題として工夫しながら取り組んでいきました。
その取り組みが、料理だけではなく他の仕事ができることにも広がっていったのです。
まとめ
自閉症の息子は不器用でできないことだらけでしたが、社会に出た時に役に立つ人に育ることを子育ての目標にしました。
まずは、家庭内で役に立つ人に育てることを出発点として、家事を教えてきたのです。
家事の中でも特に力を入れたのは「料理」です。料理は、出来上がる楽しみや家族に褒めてもらえる喜びがあるので、彼の子育てには最適の課題でした。
私の手助けなしで一人で料理ができるようになるためには、何が必要かを見つけながら教えていくことが欠かせなかったです。
こうして取り組んできたことが、現在、彼が勤務する会社で、役に立って当てにされる人に成長できた大きな要因になっているのだと思います。
「料理」をすることのおまけとして「自分が作ったものは食べる」ことから、ひどかった偏食もいつの間にかなくなり、今では何でも食べられるようになっています。
▼関連記事▼
自閉症療育はいつから何をすれば良いか知るために必要な目標とは!