好きなことを仕事にできる人がどれだけいるでしょう。ましてや、自閉症という障害をもつ息子が、好きなことを仕事にできることは、まずないだろう。
彼が働けるとしたら、
単純な作業しかないだろうな。
辛い仕事にしか就けないかもしれない。それなら、仕事は仕事、楽しむことは別に持てば良いと考えました。
でも、彼が自分で選んで趣味を持つことは難しいだろうと思ったのです。
そこで、彼の好き嫌いに関係なく、チャンスがあれば習い事などを経験させてきました。
その結果、社会人になって10年が過ぎた今も続けていることが2つあり、余暇を過ごす楽しみのひとつになっています。
今回は、自閉症の息子に趣味を持たせるために、どんな状況から何をどのようにして経験させてきたかをお話しします。
その道の専門家に習うこと
余暇を楽しむために色んなことを経験させるといっても、私では教えられないことばかり。どうせやるなら、その道の専門家に教えてもらうことに決めました。
私がやることは、社会性を育て人に教わることができる子にすることだよね。
指示が聞けず、好き勝手にしかできなかった7歳の頃には、習い事をするなんてことは無理でした。
そんな彼に歯車を合わせて向き合い、学習態度を整えること、困難なこともあきらめずにやり遂げることなど、個別学習で教えることから始めたのです。
毎日、格闘しているような状態だった彼が、私以外の人に教わることができるようになったのは、小学3年生の頃です。
好き嫌い関係なく経験させたこと
息子に習わせたいと思ったことは、彼の好き嫌いに関係なくさせてきました。そして、一度”やる”と決めて始めたことは、滅多なことでは止めないことを貫いていました。
「始めたらやめない」それが結果的に彼が努力家に育ったことにもつながったと思います。
スイミング
スイミングを始めたのは、息子が2歳の頃です。その頃の目的は、趣味を持つためではありませんでした。
彼は、顔に水がかかるのが苦手で、毎晩、お風呂に入るときに大騒ぎになっていたんです。
ほんとに困っていたので、スイミングは水に慣れさせることが目的で、障害児の通園施設でやっていた親子スイミングを始めたのです。
スイミングともなると、ちょっと水がかかる程度ではなく、頭からズップリ潜らされるので短日で水に慣れたのです。
水に慣れてからは、プールが好きになり、5歳でスイミングスクールの障害児コースに入り、小学校卒業まで続けました。
カッコいい泳ぎ方ではないですが、クロールで25mくらいは泳げるようになり、今も夏になると一人でプールに行っています。
ピアノ
ピアノを習い始めたのは、小学校3年生の3学期からです。
姉たちもピアノを習っていて、2歳上のレッスンの送り迎えに彼を連れていくことが多かったんです。
ある日のこと、聴き覚えたアニメソングのメロディを、1本指で1音ずつ拾うようにゆっくり弾いていることに気付いたんです。
息子は、話し言葉を聞き分けるのは苦手なのですが、音階を聴き分ける耳を持っていたことを知りました。
それは、小学校2年生頃のことでした。
そこで、姉たちの先生に指導をお願いしてみたのですが、先生とのコミュケーションがとれる状態ではなかったので、次期を待つことにしました。
先生から、「始めてみましょうか?」と、声をかけてくださったのが小学校3年生の3学期だったのです。
始めてみたものの、指先が不器用な彼は、5本指を使って弾くことが難しく、泣きながら練習していたこともあります。
でも、それくらいのことで諦めていたら、何も身に付きません。やると決めて始めたことは、少々のことでは止めないのが心情でした。
そして、29歳になる今も、同じ先生の下でレッスンに通い続けています。
ピアノの音が好きなんだそうです。「ピアノは止めないよ。」と、自分で月謝を払ってレッスンに通っています。
2年に1回の発表会にも毎回出ています。
社会人になってからは、ピアノを弾く時間が限られているので、発表会に向けての曲を2曲、2年かけて練習しています。
少年少女合唱団
息子は、小学校3年生から6年生までの4年間、地域の少年少女合唱団に入団していました。
地元にある4校の小学校に通う3年生以上の児童が対象で、入団者を募って結成していた少年少女合唱団です。
実は、合唱団も姉たちの影響なんです。
2人の姉たちが入団していたので、彼を連れてよく練習を見に行っていました。親の当番がありましたからね。
彼にもやらせてみたいけど、迷惑かけるから無理だな。
「彼も入団できたらいいなぁ」と思いつつ、集団行動が難しいので、迷惑をかけてしまうから無理だと思っていたんです。
そんなある日、「やらせてみたらどう?」と、親の会の会長さんが、迷惑なんて気にしなくて良いからと勧めてくださったんです。
同じ小学校の同学年のお母さんだったので、彼がどんな子かも知った上でのお誘いでした。
最初の頃は、練習中に騒ぐこともあり、迷惑をかけたのですが、指導者にも恵まれ根気よく指導していただきました。
おかげで、地域での演奏会や県外での演奏旅行にも、他の団員と同じに参加させていただいて、舞台に立つ経験も何度もさせてもらったのです。
初めての舞台は、観客席でヒヤヒヤしてました。
こうして、姉たちの活動のおかげで、色んなチャンスに恵まれました。
姉たちの活動に親の動向が必要な時は、必ず、彼を連れて行くことにしていたので、周囲の人も自然と彼を理解し、受け入れてくれたように思います。
スケート
スケートを始めたのは、中学2年生の頃です。
キッカケは、知的障害者のスポーツ活動を支援する団体であるスペシャルオリンピックスに入会したことでした。
冬季のプログラムにスケートがあったので、やってみることにしたのです。
息子が習ったのは、スピードスケートでした。
スケートは、3歳頃に何度か連れて行ったことがあるくらいで、氷の上に立つのがやっとという状態からのスタートでした。
身体が硬い上に転ぶのが怖いとあって、上達は遅かったのですが、3回目の練習日頃には手すりに頼らず滑れるようになっていました。
しかし、フィギュアスケート用の靴から、スピードスケート用の靴に変えた途端、長いブレードが引っかかって滑れなくなったんですよね。
何度も転び、「もうできないよ!」と、喚きながらも、滑れなくなったのが悔しくて何度も練習を繰り返し、自由に滑れるようになった時は、誇らしげにしてました。
スケートは、指導者の都合でプログラムがなくなったので、2年ほどで止めることになりました。
あまり好みではなかったのか、今はやっていません。
バドミントン
バドミントンも、スペシャルオリンピックスのプログラムで、中学3年生の頃からやっていて、今もずっと続けています。
地元で練習プログラムには、バドミントン、水泳、ボウリングの3種目があります。どれも彼が好きなスポーツです。
練習日が重なるため、どれかひとつを選択をするときに、彼が自分で選んだのがバドミントンでした。
月に2~3回、年間を通して練習があり、地域大会や他地域での大会など、競技会もあるので、楽しみにしている余暇のひとつになっています。
苦手なことも熟練すれば好きになる
息子は、どちらかというと不器用です。身体の柔軟性がなくスポーツも上達は遅いです。
何をやっても、最初から上手くいくことはなく、彼は嫌々していたようなところがありました。好きで始めたことではなかったし、上手くできないので、小さい頃は泣き叫ぶことも多かったです。
ですが、苦手なことも練習を繰り返していくうちに、ゆっくりですが上達します。
苦手なこともできるようになると、好きなことに変わっていったのです。
親子で辛抱が必要ですが、「一度やると決めたことは止めないこと」これが必須でしたね。
習い事以外で趣味になったこと
息子が日常的に一番楽しみにしていることは、「テレビゲーム」です。
小学校1年生の頃に、それまで姉たちがしていても見向きもしなかったゲームに興味を持つようになったのです。
唯一、彼自身が好んで始めたことですが、制限なしに許可すると、永遠にやっていそうな気配があったので、ルールを決めていました。
「1の日だけ」のルールの次期もありましたよ。
「1の日だけ」のルールだと、1日、11日、21日、31日にしかできないので、我慢することや約束を守ることにもつながりました。
現在は彼自身の判断に任せています。
給料でゲームソフトやゲーム機を買うのも楽しみになっています。好きなことに使うために必要だから、きつい仕事が続いているとも言えますね。
ゲームの他では、映画鑑賞です。月に3~4回は映画館に行っています。
彼が見る映画は、小学生が好むようなアニメ系が殆どで、同じ映画を何度も見ているようです。
映画は休日に彼一人で行っています。「一緒に行こうかな?」と、言うと、「けっこうです」と断られてしまいます。
ひとりで映画に行けるようになったのは、お金の使い方、買い物の仕方、困ったときの尋ね方、一人外出の訓練なども繰り返ししてきたからです。
一つひとつ丁寧に教えていかないと、身に付かないのです。
まとめ
自閉症の息子が成人したとき、余暇を楽しめることを持たせたいと思いました。
彼が就職できたとしても、単純作業しかないだろうと予想できたので、余暇を好きなことで楽しめたら良いなと思ったからです。
でも、彼自身で趣味を見つけるのは難しいと思ったので、彼の好みに関係なく、習い事もさせてきたのです。
苦手で嫌々していたことも多かったし、時間もかかりましたが継続していれば上達します。
嫌いだったことも上達すれば、得意になり好きなことに変わっていきました。
現在の彼は、クリーニング工場で働いていて、仕事はきついです。ですが、休日には好きことで余暇を楽しむことができているので、活き活きとしています。
人に教わることや諦めずに努力することも、同時に身に付いたと思います。
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