自閉症の息子は「指示が通らない」というより、「指示が届かない」と言った方が正しいかもしれません。
特に言葉の指示は素通りしている感じでした。
何を指示されたか分かっていてもやらないのではなく、指示されていることすら理解していなかったかもしれません。
指示が聞けるようにならないと、何も教えることができないので、彼に届く指示の方法が必要でした。
そんな彼が指示に従えるようになった取り組みについて書いていきます。
自閉症の息子に分かりやすい指示は?
指示する側からすると、話し言葉で指示が届くのが楽ですよね。でも、息子は指示を聞き取って理解するのは苦手だったんです。
3歳頃の健康診断で、耳が聞こえないんじゃないかと言われて、聴力検査をしたくらい、乳幼児期から、言葉が届かない子でした。
ですが、幼少期から視覚がとても強かったんです。
複雑な迷路をパッと見ただけで、スイスイとクリアしたり、はじめて通った道を往復したとき、逆方向からでも位置が分かっていたり、驚かされたことが度々ありました。
そんな息子への指示は、聴覚より視覚で届けた方が分かりやすかったです。
言葉で何度も何度も言っても、息子が理解しないと、私もイライラして声を荒げてしまい、息子は余計に何がなんだか分からず最悪状態になることもありましたから。
そこで、息子への指示は、簡潔な言葉でカードにすることにしました。
自閉症の息子に使った指示カード
言葉で伝わりにくい幼児期の息子とのコミュニケーションに、絵を描きながら話すことをしていました。
ただ、彼に伝わるような絵を描くのが難しくて、誤解していたかもしれないし、誤解していたかどうかも不明でした。
そんな幼児期の経験も踏まえて、小学1年生から取り入れた指示カードは「文字」だけにすることにしました。
日常スケジュールの指示カード
スケジュール表は、息子に先の見通しを付けさせる目的が主でしたが、指示カード、指示、行動を一連のこととして理解させる目的もありました。
顔を洗う、トイレに行く、ごはんを食べる、着替える、風呂に入る、などなど、日常のことは毎日必ずすることなので、指示カードの意味を理解しやすいからです。
指示カードを見せながら声かけをして行動を促しました。
すぐにできるようにはならなかったですが、毎日同じことを繰り返すことで、分かるようになっていきました。
指示カードで行動できるようになると、うるさく言う必要がなくなるので、息子もスッキリしたと思います。
息子は、耳から入る言葉を理解するのが難しかったので、口うるさく言うほど言葉のシャワーで追い詰めてしまうことになっていたからです。
勉強中の指示カード
勉強スケジュールは、何をするのか見通しをつけさせることで、抵抗をなくして勉強に取り組めるようするためのものでした。
勉強スケジュールの最後は、「折り紙」や「迷路」など、彼にとって簡単で楽しみな課題で終わるようにすることで、終わりを楽しみに取り組むようにもなりました。
日常生活の指示と同様に、毎日同じことを繰り返して学習させていたので、指示カードと指示が結びつけて理解させやすかったです。
マナーの指示カード
マナーの指示カードは、行動を整えるためのもので、息子に一番必要なものでした。
じっと待っていられないときには「手はひざ」、関係ないことを喋リ始めたら「沈黙」のように、否定ではない行動を簡潔な言葉で指示カードにしていました。
マナーの指示カードは、まず勉強中に使うことで指示に従えるようになり、他の場面でも使えるようになっていきました。
例えば、食卓に着いて食事を待つ時間に「手はひざ」のカードをテーブルに、姉たちの音楽会を見に行ったときには、「沈黙」のカードを持参するなど。
色んな場面で彼が周囲に迷惑をかけそうな行動をし始めたときに提示して、行動を整えられるようになっていきました。
カードは3cm×8㎝くらいの大きさにカットした厚紙に手書きで作ったもので、白紙のカードも用意しておき、咄嗟に新カードを作ることもありました。
厚紙は空き箱などを再利用していました。
そんな雑な作りのカードでしたが、息子はパターン化しやすい子だったので、今思えば不揃いな出来のカードが良かったようにも思います。
報告・質問・要求などの指示カード
自閉症の息子は、分からないときに「分かりません。教えてください。」と言えないがために、困っていました。
困るだけなら他害はないんですが、癇癪をおこして大声で喚き散らすこともあったのです。
そこで、「できました。」「分かりません。」「これは何ですか?」「教えてください。」「助けてください。」なども指示カードで教えました。
家庭での個別学習中に、報告や質問のタイミングで指示カードを提示して彼の行動を促すことから始め、日常生活でも使えるようにしていったのです。
中学生になった頃には学校で分からないことがあったとき「分かりません。教えてください。」と、よく質問していたようです。
何でも臆することなく質問するので、質問したくてもできずにいた他の生徒さんたちが密かに「助かった」と感謝されていたこともあるようでした。
逆に、何でもかんでも質問するので、先生とトラブルになったこともあったんですけどね。
療育センターでそのトラブルの件を話したら、「えらい!よく言った!」と、拍手喝さいの笑い話になった事件だったので、別ページで詳しく書く予定です。
生活習慣の指示はパターン化する
息子に何か教える時は、決まったパターンで教えるのが一番分かりやすく、指導しやすかったです。
歯磨きや入浴など、身綺麗にする習慣などの生活習慣を整えることも、社会人として必要なことですよね。
そこで、「歯磨きの手順」「入浴の手順」なども、いつも同じ順番で教えました。
そのために、洗面所には歯磨き手順カード、風呂場には入浴手順カードを貼り付けていました。
水回りで使う手順カードは、水濡れするのでラミネーターをかけていました。
特に入浴は、息子が小学校4年生になるまでには、一人で入浴できるようにしようと指導していました。
これらの手順カードは、本人用ではなくて、教える親のためのものです。
特に、入浴は父親と入るときもあったので、人によって教える手順が違っていたら、息子が混乱するからです。
生活習慣の中でも入浴は、小学4年生までに一人でできるようにしたかったので、パターン化指導しようと考えました。
なぜかというと、母親と一緒にお風呂に入るのは、小学4年生くらいまでが限界だろうと思ったので、それまでに一人で入れるようにしておきたかったんです。
実際には、小学2年生くらいから、入浴は父親に任せました。
歯磨きや入浴などの生活習慣は、同じ手順で習得させると一生変わることはありません。
実際のところ、歯みがきや入浴は、ボーっとしてても同じところから洗い始めて順番もいつも通りだったりしませんか。
どんな順番で洗うかは人それぞれ、どんな手順であろうと人に迷惑をかけることではないので、決まったパターンで教えるのが適しています。
手順の指示カードがなくてもできるようになったら、カードを使うのは終わりです。
指示待ち対策
指示に従えるようにはなったは良いが、指示しないと何もできない「指示待ち」状態になってしまうこともあります。
ただ、指示されないことまでしてはいけないときもあるので、指示待ちがよい場合もあるので微妙なところです。
自分で決めさせる
息子には、スケジュールを自分で決めさせて計画することをさせました。
小学校高学年頃からは、夏休みなどの長期休みのスケジュールは、私と相談しながら予定を組むようにしていました。
自分で考えて自分で決めるということを取り入れることで、指示待ち対策になると考えたからです。
指示を減らしていく
マナー指示カードは、彼の行動に合わせて提示していたのですが、中学生頃からは、いちいち指示カードを出すのでなく、一覧にして机の前に貼り付けていました。
私が同席して指示することができないテスト中のマナーは、家庭学習の時間に「テスト中」を設定して、テスト中のマナー指示カードで練習したりもしました。
学校でのテスト中は指示カードなしです。
一人で外の社会に出たときは、誰も指示してくれる人はいないので、指示なしでも行動できるように指示を減らしていくことも必要でした。
自閉症の息子に指示カードを使った結果
どう行動すれば良いのか分からないことが多かった息子にとって、指示カードで指示することはとても分かりやすかったようです。
息子は聴覚で判断するより視覚で判断する方が得意だったので、指示カードの方が伝わりやすかったんです。
じっと待たなければいけないときも、「手はひざ」の指示カードと睨めっこで静かに待つことができるようになりました。
現在は、「待ってね」の声かけで待つことができるようになっています。
地元の一般企業に就職して14年目、指示に従って仕事ができるようになり、休日には一人で外出して映画やショッピングを楽しめるようになりました。
彼に分かりやすい指示カードを取り入れて行動を整えたことが、今彼が外の社会で一人で行動することに役立っていると思います。
まとめ
指示が通らない自閉症の息子に取り入れた指示カードについていかがでしたか?
息子は聞いて判断するより見て判断する方が得意だったので、視覚で判断できる指示カードの方が指示が通りやすかったです。
息子の指示カードは状況別に3つに大別できます。
- 日常スケジュールの指示カード
- 勉強中の指示カード
- マナーの指示カード
指示カードで指示が通るようになったら、指示待ち対策もした方が良い場合もあります。
息子の場合は、スケジュールを自分で決めさせたり、指示を減らしていくなどの対策をしました。
指示カードで一番教えたかったことは、外の社会に出たときの行動を整えることでした。
現在は特に指示することがなくなり、自分で考えて行動できるようになっています。